強烈な匂い

私達は さらに興奮。
「こんなにいっぱい、食べきれないね。」
私が 喜び満面に出した顔で言うと、がっかりな返事が 返ってきました。
「家で食べるのは 二つだけ、残りは 近所の人と親戚への土産だ。」
これだけあれば、納豆食い放題と思っていた私達は がっかりします。

 本場の納豆を、食する時が来ました。
父が、もったいぶるように藁を開くと 強烈な匂いがしたのです。
私達は この異臭に耐え切れず、その場を離れてしまいました。

 「しまった、腐っている。」
他の束も開き、次々に匂いを嗅いだ父は、納豆の藁を袋に戻しながら がっかりした様子で こう言ったのです。
「初日に買って、2日も経ってしまったから、腐ってしまったのかもしれない。」
「参った、全部腐ってしまった。」
「これじゃ、土産として渡せないな。」
「南の地方に、納豆が無い理由が解ったよ。」
そして、その本場の納豆は 私達の口に入ることなく、翌朝、庭先で 異臭を放ちながら袋ごと燃やされてしまいました。

 結局、私は 藁に包まれた納豆しか見ていなかったのです。
その時は 藁に包まれた本場の甘納豆が 腐ってしまっていたのだと、ずーっと 思っていたのでした。
だから、会社の食堂でも、納豆が出された時に あの納豆と同じものとは 判らなかったのです。
藁の束に包まれていれば、思い出したかも知れません。

 その時の父は 納豆が 甘納豆で無いことを解っていても、あの納豆独特の臭いは 知らなかったのでしょう。
普段無口な父が、滅多に見せない表情で 軽快に話していたのに、突然落胆した表情をしてしまった事だけは いまでも 私の記憶に残っているのです。
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